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2007年10月26日(金曜日)

新世界を汚染するマイクロソフト

カテゴリー: - spiky @ 18時44分40秒 このエントリをはてなブックマークに追加このエントリをdel.icio.usに追加このエントリをTagClickに追加

マイクロソフトはひっそりと新たな市場を目指し、これまでコンピューターなどとは無縁だった開発途上国の多くの子供たちの頭を汚染しようとしている。

 

マスコミには"100ドルPCプロジェクト"のほうが名前の通りの良い、OLPCプロジェクト。
OLPCとは"One Laptop Per Child"の略である。米国マサチューセッツ工科大学
メディアラボ創設者、Nicholas Negroponteが代表を務めるNPOであり、世界中の
(そして当面は開発途上国の)教育の機会から遠ざけられている子供たちに、あまねく
学習の機会を提供することを目的として活動をしている団体である。

 

当方もその素晴らしい活動趣旨に賛同し、微力ながらOLPC wikiの翻訳ボランティア
として協力させていただいている。

 

本題に入る前に、大事なことを記しておきたい。マスコミ、特に日本で報道されるOLPC
関連のニュースは、とかく"驚異的に安いノートパソコンを作っている慈善団体"といった
雰囲気でニュースを流すことが多く、折を見てははたして確約どおり100ドルで、まと
もに使えるPCを作れるのか?できあがりつつあるのか?といった視点ばかりが目立つ。

 

しかしNegroponteがたびたび口をすっぱくして主張しているように

 

「OLPCはラップトップ(開発)プロジェクトではない!
 教育プロジェクトである。」

 

という趣旨がいまだによく理解されていないというのは残念である。

 

従い、OLPCの100ドルPC"XO"(※この2文字を左に90度回すと、子供たちをあらわす
シンボルとなる)をちまたの電気屋さんで買えるパソコンメーカのノートパソコンと
比較するのは大きな間違いである。

 

(ちなみに、XO自身は安いだけでなく、最新の技術が投入された、次世代の情報端末
といっても過言ではないくらい素晴らしいマシンである。)

 

OLPCは一般にこのPCを先進国の街中のショップを通して販売する計画はなく、
販売先はあくまで「国」である。OLPCプロジェクトに賛同する政府が自国の子供たちの
分を一括して購入し、無償で配布することことを想定している。OLPCはあくまで
教育プロジェクトであって、LOGOで有名なSeymour Papertの「構成主義
(connectivism)」という教育理論を基礎とする、子供たち自身の知的探究心を
活性化し、「学ぶことを学ぶ」スタイルで自ら学習を進めるうえで必要となる道具
としてXOを準備している。XO自身は単なる道具でしかなく、XOには、この
「学ぶことを学ぶ」ためのソフトウェアを準備する作業もXOのハードウェアと平行して
進められているが、それについて触れるマスコミは殆ど無い。例えば代表的なもの
としては、"Squeak(スクィーク)"が上げられる。

 

Squeakは、かの"パーソナルコンピュータの父”として有名なAlan KayのSmalltalk
から派生した処理系で、現在はAlan Kayが代表を務めるNPO, “Viewpoint Research
Institute"が開発を進めている。

 

さて、このOLPCが目指す、教育の新世界には非常に多くのコンピュータ業界の争いとは
無縁な無垢の心があり、その潜在的市場規模は膨大である。(開発途上国の子供たちが
学び、十分な発展を遂げ、先進国の仲間入りをする頃には経済活動も活発化し、行き場を
なくしている多くのプロダクトの新たな市場となるという意味において)

 

当然のことながら、長期的視野に立てば、情報産業(に限らないが)としては非常に魅力的な
潜在市場である。先進国のユーザやメーカの一喜一憂とは無縁のこの大きな市場を
初期の段階で抑えられれば、OSのようにちょっとやそっとでは途中で変更しにくいプラット
フォームなどはデファクトスタンダード化し、長期にわたる収益源となる。

 

最近マイクロソフトはその潜在的市場規模の大きさ(そしてその波及効果)に気が付いたようで
急速にOLPCへ接近しつつある。

  100ドルノートPCのWindows版登場へ

初期バージョンのXOには、コンパクト化されたFedora Core Linuxが搭載され、子供たちは
その上で稼動するSugarというインタフェースを通して学習活動を行う。
Sugarのインターフェースとしての良し悪しには議論のあるところであるが、
しかし先進国のガジェット好きが関心のあるようなきらびやかさはないものの、シンプルで
必要十分ではないかと感じている。

 

この10月から本格的なXOのプロダクションが始まり、初期ロールアウト先の各国に配布される
のは、このLinux版である。この開発をささえるのは、オープンソース世界と深く関係している
メーカ、およびOLPCの趣旨に賛同する世界中のデベロッパーである。しかし今後の需要の高まり
を考えると、少しでも多くのリソース、お金、技術、人が必要で、営利・非営利組織にかかわらず
その参加は歓迎すべきものだと考える。

 

しかしそれが、現在世界中の知的労働者の作業時間を浪費し、あまつさえ精神的障害を生み出して
いるWindowsというOSを作っている会社となると話は変わってくる。

 

マイクロソフトがOLPCへ接近し、XOへ搭載可能なコンパクトなOSを開発している背景には
当然のことながら、いまだ手つかずの市場を早い時期にWindows色で染めておきたい、
という意向が働いていることは容易に想像が付く。

 

ただでさえ、わずかA4、1枚の資料を作るのに半日も費やさねばならない、酷いデザインと
バグてんこもりのWindowsによって、先進国の産業力を大幅に低下させることに成功して
いるマイクロソフトである。営利企業が市場原理の中で、その選択を誤り収益を悪化させる
のは直接的には個々の企業のマネージメントの問題である。しかし、初等教育に用いられる
基本教材の一部にそのような病原菌が混ざっていると、非常に問題だ。

 

OLPCがターゲットとするのは年齢にしてだいたい6歳から12歳の初等教育対象者である。
初等教育が、その後に続く中・高等教育と決定的に違うのは、この時期にその人の本質的な
価値観が形作られるという点にある。従い「人間の安全保障」を提唱するインドの経済学者、
アマルティア・センが主張するように、この時期の教育は思想的に努めてニュートラルな形で
あまねく実施することが必要であるということで、OLPCが提供しようとしている学習の機会を
形作るあらゆる要素も慎重に配慮して取り入れられるべきである。

 

そういった面で、これまでLinxuをコアとし、各種アプリケーションが「オープンかつフリー」
で開発されてきたことには大きな意味がある。

 

しかしながら、明らかに商業的魅力にインセンティブを有し、本質的な教育理念を果たして
きちんと理解して設計しているのかどうかさえわからないマイクロソフトのようなメーカが
提供するOSをXOに搭載することは、本質的に子供たちを誤った方向に導く危険性が
あるように感じる。

 

マイクロソフトが狙っているのは、今のうちに純粋無垢な子供たちに、「Windows(的なもの」
に触れてもらい、将来的にWindowsの購入者になってもらうことである。マイクロソフトの
ように、資金力も豊富で、高い技術力と開発能力を持つメーカの参入を危惧せねばならない
というのは非常にジレンマでは有る。

 

望むべくは、マイクロソフトがこれまでパッチにパッチ(修正用のプログラム、という意味ではなく)
を重ね、もはや原型がなんであってどう修正すればよいのかわからないようなカオスの塊の
エッセンスをコンパクト化したものを開発しているのではなく、真に「学ぶことを学ぶ」力を
活性化できるように技術を駆使し、全くゼロから真に良いコンパクトなOSとユーザインタフェース
を生み出してくれることを願うばかりである。

 

いまのところ、「2,3ヶ月はかか」ったあとに出てくるであろうMS版OSを搭載したXOが
はたしてWindows的なものか、あるいはそうでないのかについては何の情報も無い。
引き続きワッチし、慎重に判断をしていく必要が有る。マイクロソフトが企業としての価値観
からではなく、世界を救う未来の世代の子供たちに、真に必要なものはなんなのか?という
スタンスで開発を進めてくれるよう期待したい。■


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