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2008年1月27日(日曜日)

生物と無生物のあいだ、そして。。。

カテゴリー: - spiky @ 09時01分32秒 このエントリをはてなブックマークに追加このエントリをdel.icio.usに追加このエントリをTagClickに追加

“ポリメラーゼ・チェイン・リアクション”

 

なんだか研究者としては、分野が違うもののその画期的で、しかし
シンプルかつエレガントな技術を感じさせる響きがある言葉です。

 

遺伝子工学、分子生物学の世界ではこれを知らない人はいない、
いやこの分野そのものが実質的にこの技術によって花開いたと
いっても過言ではない、エポックメイキングな技術。。。

 

素敵です。

 

遺伝子工学においてDNAの解析が基本的な作業のひとつですが、
解析をするにあたってその物理的構造をしるために試料である
DNAは、実は索がひとつあれば分かる訳ではなく、ひとつのAT,
あるいはCTペアを映像化するためになんと30億コピーも必要
らしい。。。

 

気の遠くなるほどのATCGのつらなりのなかから、例えばターゲット
としている疾病などに関係するごく短い、ATCGの検索をするのに
その特定の配列をもった文字列に相当するDNAを、いかにして
数十億もコピーすれば良いのか。

 

従来はこのターゲットの断片を特殊な大腸菌に注入し、大腸菌の
DNAコピー機能を使って増殖させる方法が主だったということですが、
これではコピーに時間がかかる上に、研究試料としてのDNAの
純度に問題が生ずる。

 

門外漢なもので、変なことを書いているかもしれませんが、
このポリメラーゼ・チェイン・リアクションというのは、
DNAの特定の塩基配列だけをきわめて単時間に、膨大な量に
増殖させるための技術です。

 

その方法というのが、なんともシンプルかつエレガントで、
偉大な発見は芸術的でもある、ということを絵に描いたような
例だと感じました。

 

情報技術的な観点から見ると、それは処理するプログラムの
コーディングをきわめて簡素にかつエレガントにする、
「再帰呼び出し」の処理に通ずるものがあります。

 

膨大な量のデータを処理するのに、それを一般的なループ処理で
こなそうとすると、ループのネスト地獄になり、きわめて難解で
かつ可読性の著しく低い、醜いコードが生まれます。

 

再帰処理は、繰り返し計算の単位をシンプルにしておいて、その
計算の中に自分自身を呼び出す処理を加え、コードは短いながらも
次から次に自分を呼び出すことで、気の遠くなるような繰り返し
処理をきわめて単純なコードでこなすことの出来る、アルゴリズム、
あるいはプログラミングの世界にいくつかある芸術的な手法です。

 

その短いコードが処理をこなし、終了条件にかかった瞬間に、
気の遠くなるようなネストの奥底からまたたくまに開始レベルに
戻ってきて、膨大なデータの処理とは裏腹に、何事も無かったかの
ような澄まし顔でいる様子は、PCRに似たすがすがしさがあります。

 

再帰処理を計算機で行う際の一番の問題は、手で書かれた人為的
階層しか持たないループのネストとは異なり、終了条件にかからなければ
延々と自分を呼び出し続け、そのためにネストは無限に深くなり、
あっというまに計算機の資源を食いつぶしてしまう危険性がある点です。

 

再帰処理で書かれたごく短いコードが、メモリ上を食いつぶして行く様を
可視化できたなら、それはまるでPCRによってごく小さなチューブのなかで
爆発的に増殖するDNAさながら、あっというまにメモリ、そしてそれに
とどまらずスワップ領域として使われるハードディスクが真っ赤っかになって
いく様子に似ているでしょう。

 

異分野でそういった心象的なイメージが重なるものがあるというのは
なんとも愉快です。

このPCR、そして遺伝子工学の黎明期を背景として、
「はたして生物と無生物をわけるものは何なのか?」
という本をたまたま本屋でみつけ、ぱらぱらっとめくって
面白く読んでいるところです。

 

『生物と無生物のあいだ』 福岡伸一

 

なかなか面白い本なのでおすすめです。

 

ちなみに著者は、生物と無生物をわける唯一の規範が
「自己複製できるシステムである」という点のみに
依存することに異議を唱え、たとえDNAの解析によって
還元論的方法でつぶさに調べたところで、その差異を
極めることは難しい、と述べています。

 

光学顕微鏡に依存していた野口英世の時代、かれは見ようとして
見えないものを見つめていた。。。。つまり光学顕微鏡では
分解能力的にその視認が不可能であった、透明な液体、そこに
含まれるウィルスをみることが出来なかったがため、
その存在を知ることすら無かった。

 

いま遺伝子工学はおそらく生物を意味のあるものとして構成する
最小単位であるDNAの螺旋構造まで可視化することに成功し
それを還元論的なやり方で理解しようとしている。一般的に
生物と理解されているこの地球上の全ての存在はDNAを有し、
全てに共通したその自己複製能力を有するが故、生物、と
理解されると。しかし自己複製する能力を有しながらきわめて
その他すべての生物とは異質なウィルスははたしてどちらなのか。
答えは本をお読み頂ければと思います。

 

著者が述べる、新たな規範、その最小単位を構成する構成要素間の
ダイナミズム、というものはごく最近、スモールワールドモデルや
スケールフリーモデルでブレークした複雑ネットワーク理論に
つながってきます。

 

生物を構成するDNAは静的なその組み合わせが存在することに
のみ意味があるのではなく、ダイナミックにふるまう様子、そこに
生物としてを生物と規定するものがある。

 

このDNAの塩基配列の不思議をなぞときにした、非常におもしろい
フィクションとして、随分と前に出版された マイクル・コーディの

 

 『イエスの遺伝子』〈上〉
 『イエスの遺伝子』〈下〉 

 

という本があります。
イエスが持っていたという他の人を治癒する特殊な能力、
最新の遺伝子解析コンピュータによって、遺伝子にあらかじめ
組み込まれた病気の種類とその発現時期まできわめて正確に
予測することが出来るようになった近未来、主人公の科学者は
たまたまふと興味をもった自分の娘の遺伝子を解析することで
ある悲しい事実を発見します。

 

それを機に、その悲劇をさけるための方法を見つけんがため、
死にものぐるいで研究に没頭するのですが、そこで特殊な
能力を持っていたイエスの遺伝子にヒントがあることをつきとめます。

 

おりしも、万物の創造は神のみ技であり、その神秘の領域に
人が立ち入ることをよしとしないキリスト教組織が、この主人公を
神の領域を侵すものとして危険視し、抹殺しようと動き出します。
その暗殺者としてさし向けられた少女と、イエスの遺伝子を探し求め
ていた研究者との数奇な運命。

 

はたして彼は娘を助けることが出来るのか?
読後、心に暖かいものと、そしてなんともやるせない気持ちを残す
ところが、僕の大好きなSF界の巨匠、ロバート・A・ハインラインの
「夏への扉」に通ずるものがあります。

 

 『夏への扉』 ロバート・A・ハインライン

 

僕の大好きな本のひとつです。 ■

 

いずれも非常に面白い本です。おすすめです。



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